マル査がやってきた(その1)

マル査がやってきた(その1)

もう20年以上前の話ですが、証券会社で働いていたころ、
相場が始まる9時きっかりにデスクの電話が鳴りました。出てみると家内が
「○○国税局の方々がいらっしゃっています。変わります。」
「何月何日、法人税法及び所得税法違反容疑で一斉査察に入りましたすぐにご帰宅下さい。」
(どう言ったか言葉ははっきり憶えていませんが)

時は平成元年、バブルの真っ最中これから忙しい相場が始まるというのに・・・
「帰らなかったらどうなるのですか?」
「強制捜査なのでタンス等全て調べさせてもらいます。」
「あ~わかりました、これから帰ります。」

上司も国税と聞くと何も言わず了解いただきました。
帰ってみると、家には私と同世代のマル査の男が二人
「お帰りなさい。」
「○○不動産法人税法違反及び代表取締役○○の所得税法違反の容疑・・・・」

なんだ反面調査か?少しビビッてたのに(嘘)。
半年前に買った自宅マンションの売主の調査で私をグルだと思ったらしい。

「お金の出どころは?」
「全部会社からの借金です。」
「通帳を見せて下さい。」
「はい。」

・・・一件落着・・・ところがなかなか帰らない(帰れない)
「この出金は何に使ったのだとか・・・あれこれ。」

どうも一斉調査だから自分たちだけ帰るわけにはいかないようです(公務員)。丁度昼前、
「出前をとっていただけますか?領収書は○○国税局で。お二人の分も払います。」
「どこでもいいですか?」
「いいです。」

駅前の寿司屋に電話しました。
「上にぎり4人前、領収書は○○国税局。」

驚いたことに何と10分で出前到着(たまに頼むと30分~1時間は当たり前)さすが「天下御免の○○国税局。」
これからはこの手を使おう・・・。

実は私の親父も、もとは国税査察官、彼らのOBです(現職はお決まりの税理士です)昼からは親父に来てもらい彼らに対応。
「そんなこと本件に関係ないじゃない。」
「・・・・・・。」
「私はもう会社に戻って宜しいでしょうか?」
「・・・。」
親父「いいよ。」

でも結局彼らは夕方5時までいたそうです。
また証拠として持って行かれた権利書の返還は2年後でした。
会社に戻った私は自宅にマル査が入ったことで、いきなりヒーローです(笑い)。

自宅は始めてですが、証券会社の監督官庁は大蔵省(現在金融庁)なので税務署・国税の調査はサイクルでよくありました。

当時は今と違って「仮名借名当たり前」口座を開くのに本人確認など必要なしです。
ただマル優等(1人300万円国債と合わせると600万円まで非課税制度)税務署に届出が必要な非課税貯蓄は別でした。

しかし、あるお金持ちの方に見せていただいた証書にはなんと「マル優1億円」と書いてありました。
そこには○○銀行○○支店長と押印されていました。

株式上場している銀行なのですよ!
「銀行から貰った」とビニール袋に入った数十個の印鑑も見せてもらいました。
多分銀行の行員や行員の親戚総動員なのでしょう。
証券会社はそこまではしていませんでした、というのは無記名の割引債券というものがありました。

ワリコク・ワリコウ・ワリチョウ等です。
(源泉徴収16%で本券を持っていけば金融機関の窓口で償還金を受取ることが出来る証券ということでお金持ちに人気)当時脱税対策?として国民総背番号制(グリーンカード制)にするという話が持ち上がりました(結局廃案になりましたが)。

たまたま店頭に座っていた私の前に現れたのが先程のお金持ち(お肉屋さん)です。
風呂敷にバラで3000万円程入っていたと思います。
私の証券マン経験上お金持ちは現金を風呂敷か新聞紙かリックに包んで来ました(今はないと思いますが)。

信頼していただいたのかお友達も紹介頂いてそれぞれ10億近い証券を買っていただきました。
支店では地元でパチンコ店を中心に大きく業績を伸ばしていた大手企業の社長さんと双璧でした。
共通するのは本券を出庫することです(先程のグリーンカード対策です)。

割引債券は誰もが
「税金を払っているし、無記名なので心配ナイ」と思っていました。

ところが、これがとんでもない代物なのです。
発行体は国と大蔵省の検査を受ける長期信用銀行等、販売もまた大蔵省管轄の金融機関、必ず国税・税務署といった大蔵省グループの検査を受けます。

検査では個別の税務調査はしないとの建前ですが、しっかりと情報は持って帰るみたいです。
それに証券には全て証券番号が振ってあります。買った金融機関と償還を受けた金融機関が違っていても全て大蔵省の管理下です。

億以上の証券を出庫し他で償還金を受けるのは自らやばい金だと宣言してようなものです。

あの角栄なき後の自民党のドン金丸信氏もこのワリ債で遂に逮捕されました(自宅からは70億円程出てきたそうです・・・先程のお客様もそれ位持っていたと思います)。
当時20代の駆け出し証券マンの私など考えも及びませんでした。

日本の官僚は凄い!その官僚に楯突いた宇宙人「鳩」など赤子をひねるようなものだったのでしょう。

その2に続く(右下をクリックしてください)